日本人とルール 法か命かで悩む救命士/ユルユルの自治体

 

ルールやきまりは守ることにイギがあって、それを無視すると手痛い目にあう。
そんなことがことし1月、栃木県の「那須サファリパーク」でよく分かった。
22歳の女性飼育員がトラ(体長3m、体重150k)に襲われて右手首を失う重傷を負い、助けに来た別の飼育員もトラにかまれる事故が起きた。
この原因にあったのがいくつものルール違反。
まず2人のスタッフでトラを獣舎に入れて、それを目視で確認するはずだったのに、事故の前日、1人が別作業をしていて1人だけでこれを行った。
しかもそのスタッフは、トラを獣舎に入れたかどうか確認していない。
そして事故当日、本来ならトラ舎の外を回る通路を使うはずなのに、女性飼育員がトラ舎の中を通っていたところ(たぶんそれが近道)、野放し状態のトラと遭遇した。
少なくとも3つのルール違反が重なって、22歳の女性が手首から先を失うことになる。

ルール無視の代償としては大きすぎるし痛すぎるけど、自己責任の部分もあるから、全面的に同情することはできない。
でも、これはどうなのか?

東海テレビ(2022/03/04)

心肺停止で救命活動中…偶然居合わせた看護師に“医療行為”指示 消防職員が懲戒処分 患者は意識取り戻す

心肺が停止して危ない状態にあった患者に、豊橋市の消防士が救命活動をしていたとき、たまたま現場に看護師がいたから、本来は自分がするはずの医療行為(静脈路確保、つまり点滴の注射)をその人にしてもらった。
でも救命活動中に、市民へ医療行為を依頼するのはNG。
消防士は自分よりも、経験のある看護師の方が確実だと思って処置をお願いして、患者はその後に意識を取り戻して助かったけれど、ダメなものはダメ。
「救護は成功したが、公務員としては不適正な業務執行」をしたということで、豊橋市はこの男性に減給10分の1・6カ月の懲戒処分を下す。

でもこれ、極端なことを言うと、自分が医療行為をして患者を死なせても、きめられたルール通りにやったということで、職員へのおとがめはナシということになる。
だから、市の対応がネットで波紋を呼んだ。

・医者じゃないのに看護師に指示したらいかん。
・最近こういう理屈多いよな
規則を優先して、人命を軽視する風潮はやばい
・例えが極端だが警察官がテロに襲われ、側に居合わせた元自衛官が
倒れた警官の銃で応戦、撃退するも銃刀法違反で逮捕
これが法律だからな 相手が助かったかどうかは関係ない
・助かった人は感謝してるよ
・緊急対応でトータルうまくいったら三方よしでおわりにしてくれよ
・これが日本という国。
人を救うと医師法違反と言われる。

 

日本ではこの手の問題がよく起こるのだ。
2011年にもわが静岡県で、非番中だった救急救命士が交通事故の現場に居合わせて、負傷者に救命処置を行ったら、停職6か月の懲戒処分をくらって辞職した。

・勤務時間外に医師の指示なしで“勝手に”処置を行った。
・近くの消防署から注射針などを無断で持ち出した。

法律に触れる可能性があることは分かっていたけど、助けたい一心だったと救命士が説明するも、これもダメなものはダメ。
法を守ることが大事なのは当然としても、そうすると目の前の人が死ぬ可能性が高くなるのに、それでも手を出してはいけないのか?

東日本大震災のときもそれが問題になる。
救急救命士が心配停止の患者へ医療行為を行おうとして、まず医師の指示を得ようとする。
でも被災地のインフラが破壊されていて、通信事情が極度に悪化していたから、うまく医師につながらず指示を得ることがむずかしい。
医師との通信がつながるのを待っているうちに、目の前の人が死んでしまうかもしれない(実際そんなケースはあったと思う)けど、ルールはルール。

*厚生労働省はこうした緊急事態のときは、違法行為には当たらないとしている。でも、その通達や明確な基準などが現場へ伝わっていなかったのだろう。

救急救命士が権限を超えて、独断で治療を行うことを認めるワケにもいかない。
だから彼らと医師・看護師の活動の許容範囲には、踏み越えてはいけない一線があるのだけど、その境界に立たされると判断が本当にむずかしくなる。
法律を変えるには、この問題への世間の関心を高めることが重要だと思うわけですよ。

 

でもそんな厳格さが、まったくない世界が日本にもあるようだ。

NHKニュース(03月04日)

コロナ対策交付金は680億円 「使い途積極的に公表を」

新型コロナ対策のためなら原則として自由に使うことができる、ある意味夢のような交付金を日本各地の自治体が国からもらった。
でもNHKがその使いみちを取材すると、マスクや体温計、消毒液などの購入にあてるのはいいとして、

・観光施設にあるテニスコートの改修や、コテージを整備するなどして5700万円を使う。
・作物を食い荒らすサルなどの有害動物の対策費として約960万円を使う。

といったコロナ対策との接点が、東大クイズ王でも分からないようなことに使われていたことが判明した。
しかも多くの自治体が交付金のを使いみちをあまり公表していない。
予算の目的と実際の結果が、宇宙レベルでかけ離れていると話題になったのがコレだ。

 

 

日本人の国民性として決まりを守ることは、知人の欧米人もアラブ人もアフリカ人も指摘していて、これはもう世界的な常識になっている。
でも国内を見てみると、現場の裁量権に大きな違いがあるから、救命かルール順守かで悩んで処分される救命士がいる一方、自由に解釈して好き勝手なことをやっても、「ルールの範囲内」だからセーフとなる人たちがいる。
税金なんだから、本来いちばん厳格になるべきところがけっこうユルユルで、個人にはめちゃくちゃ厳しい。
日本という国にはそんな両極端な面がある。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。